尾州から生まれた圧倒的な生地と独自のデザイン
尾州産地にアトリエを構える「YUTA MATSUOKA」は、パターン、サンプル縫製、デザインなどのほぼ全てをアトリエで行っている手仕事を感じられるブランドです。
展示会ではデザイナーの松岡さんに気になるデザインやディティールをお聞きしてみましたが、あまりはっきりした答えを得られず…。しかし作品を見ていくうち、YUTA MATSUOKAの作品とは言葉だけでは説明しきれない技術と感性により生み出されているように感じました。
デザイナーの松岡さんは、名古屋芸術大学を卒業後すぐにブランドを立ち上げ、15SSよりコレクションをスタートしました。
生み出される作品は「シャツとはこういうもの。」、「コートの仕立てはこうあるべき。」といった固定観念に捉われないデザインやディティール、生地を採用しており、型にはまらない唯一無二の世界観を作り上げています。
ここ数シーズンは、コレクション作成のために生地の打ち合わせにかかる時間が年々増しているらしく、度々工場や職人さんの元へ行き生地開発に取り組んでいるとのこと。
日本でも有数の織物産地である尾州にアトリエを構えているということもあり、作品作りに協力してくれるテキスタイルメーカーや加工工場も増え、密にコミュニケーションをとることで新たな素材を生み出しています。
26SSの展示会場や今シーズン届いた作品を実際に見た時には、そのやり取りの結晶とも言える生地が採用されていました。中には画家として活動する傍ら職人としても働いている方に依頼したという手染めの生地や、加工の仕方を教えてもらえなかったという独自の技術で仕上げられた生地も。
25AWでもこだわりを感じる生地を採用した作品が入荷して来ました。その中から今シーズン最も衝撃を受けた作品がこちら。
・カラーネップウールバギーパンツ(WHITE×RED)
こちらは「落としネップ」と呼ばれる特殊な技法を用いて製作された生地です。
生地の製作過程で落とされたネップが絣染めのようにも見える揺らぎのある表情を生み出しています。
・糸と糸の隙間を活かすように織る密度を極限まで抑えて織り上げられた生地
こちらの生地に縮絨を施すことで糸同士を絡ませ、ニットのようなふんわりとした独特の風合いに仕上げております。
この「落としネップ」という技術を操ることのできる工場は日本国内でも数えるほどしかないとのこと。縮絨の工程も加減が難しく、非常に熟練を要する高度な技術。尾州の職人たちとYUTA MATSUOKAの卓越した技術やセンスにより生み出された非常に魅力的な生地です。
そんな魅力的な生地を贅沢に使った作品はYUTA MATSUOKAらしいパンツに仕上がっていました。
表地を裁断したところに裏地をつけた、荒々しくも繊細な手仕事を感じる仕立てのポケットも印象的なディテールです。

太ももの辺りから裾にかけて紐が内蔵されており、締めることで後ろ裾が吊り上がりシルエットが劇的に変化するという他では見たことのないオリジナルデザインが目を惹きます。

そしてもう一つご紹介したい作品がこちらです。
・ドビーシルクウールコート(DARK RED)
一目見た瞬間に「ジェダイのローブじゃん。」と思った男心をくすぐるデザインが魅力的なロングコート。前身頃の生地がフードまで伸びた独特のパターンメイクが特徴的。ボタンを開けるとショールカラーのようなバランスに。

ふんわりとした膨らみのあるナチュラルウールと、ネップによる素朴な風合いを持ったノイルシルクを用いてドビー織機で織り上げた幾何学模様の生地。こちらも表情豊かに仕上がっております。

『洋服は、素材とデザインのバランスをどのように昇華させるかという考えのもと、素材がもつ面白さをデザインによって飛躍させるという方針で服を仕立てたかった。』
とおっしゃるように、他にはない独特な素材に松岡さんの手が加わり独自の世界観が生み出されています。
一眼見るだけで引き込まれる生地や世界観に触れに来てみてはいかがでしょうか。
執筆者 中村鴻大
