街の刺激と山の安らぎ
先日、Saltyでの2日間の営業を終え、2日間のお休みを経て、4日ぶりにSolitaryへ戻ってきました。
Saltyがある金沢市竪町は、石川県の中心地です。金沢駅からも車で10分ほどの距離にあり、車や人が常に行き交う賑やかな場所。
お店には外国人観光客の方も多くいらっしゃり、多種多様な方との出会いがある、とても刺激的な環境です。
その後のお休みは、地元の富山へ帰省していました。
富山も長閑で自然が多く、県内のどこにいても立山連峰が見える素晴らしい場所なのですが、Solitaryのある獅子吼周辺へ戻ってきたとき、ふと「あぁ、やっぱりこの場所がいいなぁ」と、感じている自分に気がつきました。
そう感じたのはきっと、この場所が持つ圧倒的な「自然との近さ」ゆえだと思います。
お店は山の麓にあるため、少し歩けばすぐに木々が生い茂る山へと繋がります。
街中では意識してもなかなか聞こえてこない、草木が風に揺れ動く音や鳥のさえずりが耳に入り、自然と心を安らげてくれます。

この場所へ登ってくるだけで人工物も極端に減り、視界を遮る大きな建物も、電線すらもありません。ただ、どこまでも広がる空と山々が見渡せます。
街灯も無いので、夜になれば「月ってこんなにも明るかったのか」と驚くほどの暗闇に包まれます。

これほどまでに自然を身近に感じることのできるお店は、全国を探してもほとんどないのではないでしょうか。
そして、その外に広がる静かで豊かな環境は、そのまま店内の空間へと続いています。
店内にあるテーブルは、かつて縫製工場で作業台として使用されていた天板に、滝ヶ原石の間知石(けんちいし)を足に組み合わせたものです。
壁は職人の手による塗り壁や、柿渋染めの手漉き和紙の壁紙。




ここには、大量生産されたものや工業的に生産されたものは無く、すべて人の手が介在したものに囲まれています。
どこを見渡しても豊かな表情があり、不思議と心が落ち着くような感覚を覚えます。
そんな空間の中でラックにかかる服たちもまた、人の手が介在した不均一で揺らぎのあるものばかりです。
効率を求めて工業的に生み出されたものは無く、天然素材と手仕事の跡を確かに感じられるものが多く並んでいます。

たとえば、こちらの灰草の作品。



生地の表面に現れるシワや、均一ではない色の重なり、手で触れたときの素朴な肌ざわり。
手仕事で作られた服には、窓の外に広がる木々や土の風景と同じように、一つとして同じではない表情が宿っています。
整然と機械で作られたものにはない、一つ一つ削り出したボタンや、染めから生まれる深い奥行き。
そうした服を見つめ、触れていると、山の自然環境と店内の空間、そしてこの服たちが全て地続きの存在であるように感じられます。
人の手で作られた不均一さがこの静かな環境と溶け合い、袖を通す人の心にも穏やかに馴染んでいくのだと思います。
人が行き交う街での刺激的な時間も、故郷での穏やかな時間も、それぞれに違った良さがあります。
けれど、こうしてお店がある山の麓に戻り自然の音に耳を傾けながら、手仕事の跡が残る服たちに囲まれていると、自然と心が落ち着きます。
「やっぱり、この場所がいいなぁ」
執筆者 中村鴻大


