何者になりたいのか
若さと勢いのあった20代。
ただ、30歳を手前にして、仕事や生き方について考え始める人は多いように感じます。
実際に私自身も、20代中頃まで料理の世界に身を置き、そこから服への思いを諦めきれず、勢いでアパレルの道へと進みました。
当時は、好きな服に携われることへの期待もありましたが、実際に働いてみると、見えている部分と見えていなかった部分とのギャップも大きく、その中に面白さを見出せずにいました。
服が好きだということに加えて、アパレルの世界がキラキラして見えていた。
その見え方が、転職を後押しした部分も正直あります。
SNSが当たり前になった今、そうした華やかな部分はより強調されて目に入ってきます。
でも実際に働いてみると、楽しい瞬間はあっても、思い描いていた華やかさとは遠かった。隣の芝は青く見える、という感覚を、身をもって知ることになりました。
当時いたブランドは組織が大きく、品揃えや売り場の見せ方にも細かいルールがあり、SNSやブログも規制されていました。
一店舗、一個人としての裁量で動ける範囲は、思っていたより狭く、ある程度決められた業務を淡々とこなす日々。
そうした日々を過ごしながら、周りを見ると、同世代が結婚し、家庭を持ち、役職がついていく。
同じアパレルにいた同世代も、生活や将来を考えて別の道へ進む人が増えていきました。
自分はこのままでいいのか?という焦りが、少しずつ大きくなっていきました。
好きな服を着て、お客様と仲良くなり、遊びに行ったり、食事に行ったり。
楽しい時間は確かにありましたが、その楽しさに身を任せたまま時間が過ぎていくことに、少しずつ違和感を覚えるようになっていきました。
このまま続けて、その先に何があるのか。
10年後、20年後、世の中はどうなっているのか。
自分自身も、このまま続けていくのかどうかを考えることが増えていきました。
そんな中で、オーナーの齊藤から新しくお店を出すという話をいただき、一つの決断をすることができました。
このままアパレルの道を続けていこうと。
変わらないのは、服が好きだという気持ちでした。
その気持ちが日々働く原動力であり、心血を注げる理由でもあります。
興味のないことにはどうしても向き合い続けられない自分にとって、好きなことに関わり続けることが、結果として一番自然な選択でした。
何者になりたいのか。
明確な正解があるわけではありません。
お店をやっていく中で、これまでとは全く違う業務や判断の連続で、まだまだ手探りの状態というのが正直なところ。
何者かになれているのかどうかは、まだ分かりません。
ただ、何者になりたいのかは、少しずつ見えてきた気がしています。
ただ服を売るのではなく、服を作る側の方々と、服を愉しむ方々が出会える場所にしたい。
このお店が、そうした繋がりの受け皿になること。
ファッションを通して、深いところで人と人が結びついていくこと。
目の前のことに精一杯な毎日ですが、その方向だけは、ブレずに持ち続けていたいと思っています。
執筆者 中村鴻大


