隠されるはずだったもの
普段何気なく袖を通しているシャツやジャケット。その襟や前立て、カフスの形を整え、補強するために使われている接着芯という素材。
通常であれば生地の内側へ貼り付けられ、表から見えることのない素材ですが、こちらの作品ではその接着芯をあえて表側へ見せた大胆なデザインが目を惹きます。
・Shearling Twill Check Shadow Panel Shirt(NAVY GREEN)

このシャツの印象を大きく決定づけているのが、胸元を覆う大きなビブ。
本来であれば服の内側へ隠される接着芯をそのまま表へと出し、ビブとして大胆に使用しています。

接着芯と生地の間には赤い糸を手で配置。プリントや刺繍によって柄を加えるのではなく、生地と接着芯の間に挟み込んだ赤い糸によるクロスモチーフが、接着芯越しにうっすらと浮かび上がる見たことのない表現です。
そして、ビブの周囲を縫い留めているのも同じ赤い糸。
こちらも機械で均一に縫い上げるのではなく、一針ずつ手縫いによって仕立てられています。



ステッチの長さや間隔、角度は不揃いで、所々糸同士が交差する荒々しいステッチワーク。
均一に整える機械縫製では生まれない揺らぎがそのまま残されており、一針ずつ縫い進められた人の手の痕跡がはっきりと刻まれています。
接着芯を表へ出す大胆な発想から、その内側に忍ばせたクロスモチーフ、周囲を取り囲む荒々しいハンドステッチまで。大きなビブの中に、デザインと手仕事の両方が凝縮されています。
そして、こちらの作品では40番手のコットン単糸をベースに、ポリウレタン糸を格子状に打ち込んだツイル生地を使用しています。

熱を加えながら洗うことでポリウレタン糸が縮み、表面には細かなシワやシボが現れています。

ポリウレタン糸による格子も波打つように歪み、もともとのチェック柄と交わることで、平面的な柄だけではない複雑な奥行きが生まれています。
NAVYとGREENを基調とした落ち着いた配色ですが、細かなうねりや凹凸によって粗野な風合いを得ており、胸元の荒々しいハンドステッチや切っぱなしの裾との相性も抜群。
また、格子状に織り込まれたポリウレタン糸によって適度な伸縮性も備えており、身体の動きに合わせてしなやかに伸びる着心地の良さも魅力です。

ゆったりとしたシルエットと、背面に設けられたYUTA MATSUOKAのシャツではお馴染みのインボックスプリーツにより、生地がふわりと広がり、たっぷりとしたドレープを生み出します。

今作のデザインは、以前からデザイナー自身が試してみたいと考えていた実験的なアイデアの一つだったそうです。
襟や前立てを形作るための副資材に目を向け、そこから一枚のシャツを象徴するほど大きなデザインへと発想を広げていくところにも、YUTA MATSUOKAらしい自由なものづくりが感じられます。
毎シーズン、「トレンド」や「服とはこうあるべき」といった固定観念にとらわれることなく、独創的かつ斬新なデザインを生み出し続けるYUTA MATSUOKA。その豊かな発想には、新しいコレクションを見るたびに感心させられます。
見慣れたシャツという形の中にも、まだこれほど新しい表現の可能性が残されているのだと感じさせてくれた作品です。
※YUTA MATSUOKAの作品はこちらからご覧いただけます。
執筆者 中村鴻大


