香りも履き心地も病みつき
PETROSOLAUMが展開する靴にはどれも独自の美学を感じますが、その中でも個人的に愛着があり、とりわけ好みなのがこの「Stone Derby」というモデルです。

一目見ただけで引き込まれるのは、新品でありながら、すでに長い時間を経て、使い込まれたかのような、良い意味でヤレた味のある佇まい。
製品洗いを施すことでつま先がグッと上を向いた、左右非対称な歪みのあるシルエットは、端正なドレスシューズにはない独特なムードを放っています。
磨き上げられた綺麗な靴も素敵ですが、個人的にはこの不均一で、無骨な力強い空気感がたまらなく好きです。
こちらの作品に用いられているのは、日本古くから伝わる伝統技法である燻染(いぶしぞめ)が施された鹿革スウェード。
松や稾を燃やして昇り立つ煙で燻された革の表面には、煤の跡がポツポツと斑らに残り、製品洗いによる不均一なシワと相まって、底知れない深い渋みを醸し出しています。



箱を開けた瞬間に、芳醇でスモーキーな香りが鼻をくすぐるのも、この染めならでは。
ただの茶色やベージュとは一線を画す、奥から湧き出るような重層的な色味には、じっと見入ってしまうような魅力があります。
さらに、アッパーの粗野で乾いた質感に合わせた、粗めに削りっぱなしにしたコバが全体の圧倒的な一体感を生み出し、より無骨で重厚なムードを醸し出しています。
このコバの仕上げがあるからこそ、全体のアルチザンな雰囲気がより一層引き締まり、足元に確かな存在感をもたらしてくれます。

しかし、この無骨な見た目に対して、いざ足を入れたときの履き心地のギャップには、良い意味で大きく裏切られることになります。
さぞ硬くて重いのだろうという先入観を持って足を入れると、その瞬間、視覚的な乾いた質感とは裏腹に、革自体が驚くほど柔らかいことに驚かされます。




足全体を優しく包み込むようなフィット感があり、最初からとにかく抜群に足馴染みが良いのです。
さらに、この重厚な佇まいからは想像できないほど非常に軽いというのも、日常的に愛用する上でこの上ない強みと言えます。
靴としての美しさや格好良さを追求しながらも、道具としての歩きやすさや快適さを決して犠牲にしない。
PETROSOLAUMの誠実なモノづくりが、この履き心地に凝縮されている気がします。
これだけ懐の深い佇まいを持った靴ですから、細かな傷や擦れなどは一切気にせず、デイリーにガシガシと履き込んでほしいと思います。
むしろ、丁寧に扱いすぎるよりも、少し手荒いくらいに履きこなす方が、この靴の持つポテンシャルを最大限に引き出せるはずです。
日常の中で新しく刻まれていくシワや傷、長年履くことで擦れた内側からゆっくりと顔を覗かせる地の色。
それらすべてを愛着としてお楽しみいただきながら、自分だけの一足へと育ててみてください。
執筆者 中村鴻大


