手仕事が宿った壁
昨日は、入口正面に置かれたテーブルについて書きました。
その天板に目を向けたあと、ふと視線を上げると、橙色の壁が広がっています。


店内に入ってまず印象に残るあの壁紙には、柿渋染めを施した和紙を使用しています。
こちらの壁紙は、オーナーの知人であるクロス職人の方に仕上げていただきました。

柿渋染めとは、熟していない若い渋柿から搾り取った果汁を発酵・長期熟成させた液を用いる日本古来の技法。
防虫や防腐の効果があり、古くから建物、布、和紙などに用いられてきました。
和紙一枚一枚に手作業で柿渋を塗り重ねることで、独特のムラと深みのある色合いが生まれます。
光の加減によっても表情が変わり、時間とともに少しずつ色味も変化していきます。
この壁紙に使われている和紙は、職人が簀桁(すけた)と呼ばれる伝統的な道具で一枚ずつ手作業で漉き上げた手漉き和紙を使用しています。
機械漉きの和紙に比べ、表面や耳は粗く不揃いですが、素朴で温かみのある表情が特徴です。

入口の壁だけでなく、カウンターや奥の部屋の天井にも貼り合わせています。
静かですが、確かな存在感があります。


そして、もうひとつの要となるのが土壁です。

こちらの土壁も、オーナーの知人である左官職人の方に仕上げていただきました。
通常の数倍の藁を混ぜ込み、何度も塗り重ねて完成した壁。
表面には荒々しく藁が浮かび上がり、コテでならした手仕事ならではの揺らぎが感じられます。



整いすぎていない。
その不均一さが、どこか心を落ち着かせます。
皆様からは見えることはないのですが、カウンターの内側の壁の一部を、オーナーと私で仕上げさせていただきました。
・オーナーが塗った壁
・私が塗った壁
当然、職人の方とは比べ物にならないほど不恰好です。
ですがその壁を見るたびに、オープン準備に追われた楽しくも大変だった日々が蘇ります。
同時に、初心を忘れないようにと、気が引き締まる場所でもあります。
当店で使用しているキャッシュトレーや、ショップカードを置いている小物置きも、同じ職人の方に製作していただきました。


さらに、職人さんの粋な計らいで、土壁のどこかに稲穂が埋められています。
ご来店の際は是非探してみてください。

稲穂は古くから商売繁盛の象徴。
「実るほど、頭を垂れる稲穂かな」という言葉の通り、謙虚さを忘れないという意味も持っています。
この稲穂を見るたびに、背筋が伸びる思いがします。
クロスを貼り合わせた均一な壁が主流となるなかで、Solitaryでは手仕事を感じられるものを選びました。
当店でお取り扱いさせていただいている作品を並べる場所には、やはり手仕事によるものが必要だったのです。
どちらも古くから続く伝統的な技術。
そしてどちらも、人の手が加わることでしか生まれない表情を持っています。
ご来店の際は、作品とあわせて、壁紙や土壁にもそっと目を向けてみてください。
執筆者 中村鴻大


