見えない部分
伝統的な靴づくりを軸にしながら、独創的な発想で靴を作り続けるPETROSOLAUM。
その作り込みはビスポークシューズと見紛うほどで、既製品でここまでやっているブランドはそう多くないと思います。
中でもハイエンドラインである「03last」を使用した作品は、靴好きであれば思わず唸るような仕立て。
ただ、このブランドの面白さは仕立ての良さだけにとどまりません。
以前ご紹介したH ChukkerやStone Derbyもそうでしたが、耳馴染みのない革や染めを用いた組み合わせとデザインもまた、PETROSOLAUMというブランドを語る上で欠かせない部分です。
今回ご覧いただきたいのは、そうした要素がひとつの靴の中にぎゅっと詰まった作品です。
・Hidden Derby Low (DARK BROWN-BLACK)

まず目を惹くのは、そのすっきりとしたアウトラインです。
履き口から外羽根にかけて、ステッチが一切見当たりません。


革を薄く切り分け、内側でライニングと縫い合わせた後に被せることで、本来見えるはずのステッチを隠しています。
PETROSOLAUM独自のこの手法が「Hidden」というモデル名の由来です。
ミニマルな見た目の中に、手間のかかった仕事が静かに宿っています。
素材には老舗タンナー「新喜皮革」とPETROSOLAUMが共同開発したコードヴァンバットを使用しています。コードヴァン層の美しい光沢と、周囲のバット部分の荒々しい質感が一枚の中で隣り合い、グラデーションのように質感が変化した革です。
この革の使い方にも特徴があります。
つま先、サイドを包み込むパーツにはコードヴァン層を、ヒールから羽根へと伸びるパーツには異なる質感が混ざる部分を配置。



正面から見たときに、そのコントラストが自然と現れる構成になっています。

この切りっぱなしのようなアウトラインを見てお気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、この革は茶芯です。
履き込むにつれて擦れやすい部分や屈曲部から下地の色が現れ、無骨な表情へと変化していきます。
そして、さらに細部へ目を向けると、「03last」がどれほど手をかけているのかが見えてきます。
アッパーの手吊り込み。
その証としてヒールにはタックホールが見られます。

底付けはハンドソーンウェルト製法。
手吊り込みで立体的なフォルムと足へ吸い付くような収まりの良さを生み出し、さらに足馴染みまで良い。

ここでもう一つ見ていただきたいのが出し縫いステッチの色。
こちらは元々のデザインでは白だったのですが、ドレスシューズとしての雰囲気を損なわないために黒へ変更していただきました。
コバはコードヴァンバットの光沢感に合わせたように綺麗に磨き上げられています。

丸コバから平コバへと流れるように移ってゆきます。
そしてアウトソールへ目を落としていくと、ヒドゥンチャネルにフィドルバックといった仕様が現れます。
見た目の上品さに加え、耐久性にも優れる仕立て。さらに、それらを固定するためにウッドペイス(木釘)が打ち込まれています。


思わず息を呑む靴というのはそう多くありません。この靴はそのうちのひとつだと思います。
見た目はあくまで静かですが、細部に目を向けるほどに、その作り込みの深さが伝わってきます。
写真や言葉でもある程度はお伝えできますが、やはり実物を前にしたときの印象は別格。
細かな仕立てや革の質感も含めて、是非店頭でご覧いただきたく思います。
皆様のご来店を心よりお待ちしております。
執筆者 中村鴻大


