礼装が遠い土地の色を纏う
“Because it’s there.”
「そこに山があるから」という言葉で知られる、かつてエベレスト登頂を目指した英国の登山家George Mallory。
Aquellos Ojos Verdesの今シーズンは、その言葉を起点に「なぜ人はそこにあるものへ向かうのか」という問いから始まっています。
1920〜40年代の英国のアルパインやスポーツスタイル、当時使われていたウールやシルクなどの天然素材。そしてその視線はインド周辺へと移り、エスニックな要素までが一つのコレクションの中へ入り込んでいます。
最初にこのテーマを聞いた時は、私の中でも「登山」という言葉が強く印象に残りました。
しかし、作品を見ていくと、登山そのものをモチーフにするのではなく、そこから時代背景や地域の文化へと発送が広がっています。
これからご覧いただくシャツにも、そうした今シーズンの発想が意外な組み合わせとして表現されています。
・Ethnic Border Band Collar Bosom Shirt(SAFFRON)


デザインのもとになっているのは、礼装用のシャツとして古くから着られてきたブザムシャツ。
胸元に残るクラシカルな意匠やバンドカラーにはその面影がありながら、肩幅や身幅にはゆとりを持たせ、日常着として着られるようなバランスに仕立てられたデザインです。

今シーズンはそこに「Ethnic Border」と名付けられた生地が合わせられています。

経糸には50デニールのキュプラ糸に2000回転もの撚りをかけた超強撚糸を、緯糸には先染めしたオレンジのリネン糸と防縮ウール糸をランダムに打ち込み、経糸が3本浮いて1本沈む3/1綾織で織り上げた生地です。
3/1綾織は表側に経糸が多く現れる組織ですが、この生地では本来裏側となる面をあえて表に使うことで、緯糸の存在を強く見せています。

色合いや素材の異なる糸が横方向に走り、ランダムに打ち込まれた緯糸が見せる独特な風合い。土や香辛料、古い布を思わせるような色に土着っぽさを感じますが、キュプラ特有の美しい光沢があることで、素朴な印象に寄りすぎず、どこか上品な雰囲気が漂います。
エスニックな雰囲気を持ちながらもほっこりした感には傾かず、ブザムシャツのクラシカルな輪郭もしっかりと残る。生地と形、それぞれの個性が消えずに一つの作品へ収まっているところもこのシャツの魅力です。




英国の礼装をルーツに持つシャツと、インド周辺の空気を感じさせる土着っぽさのある生地。文字だけで並べれば随分と離れたもののように思えますが、一枚のシャツになった姿には不思議なほど違和感がありません。
クラシカルで整ったブザムシャツの形の中へ、不均一な色や糸の動きが入り込む。この2つの要素が交わることで、綺麗なだけでも素朴なだけでもない独特の佇まいが生まれています。
このシャツを見ていると”Because it`s there.”と言う言葉が、山の話だけではなくなってきます。
なぜ人は未知のものへ向かい、敢えてそこへ踏み込もうとするのか。既にある文脈の中だけで服を仕立てるのではなく、異なる時代や文化へ視線を伸ばし、そこから拾い上げたものを新しい形へと組み替えていく。そう考えると、このシャツに見られる組み合わせも単なるデザイン上の遊びには見えません。
離れた場所にあるもの同士を結び、その間にまだ見たことのない服を探し出す。そこに、今シーズンの「挑む」という感覚があるように感じます。
※Aquellos Ojos Verdesの作品はこちらからご覧いただけます。
執筆者 中村鴻大

