決まりきった形の中で
革靴というものは、ある程度形が決まっています。
ダービーシューズやオックスフォード、ローファー、チャッカブーツ。長い歴史の中で完成された形があり、それぞれに役割や美しさがあります。
だからこそ何十年、何百年と廃れることなく、今もなお多くの人に愛され続けているのでしょう。
その一方で、革靴という限られた枠組みの中で新しさを生み出すことは決して簡単ではありません。
派手な装飾や奇抜なデザインで目を引くことはできるかもしれません。しかし、それでは日々の装いに自然と溶け込む革靴とは少し違うように感じます。
PETROSOLAUMの作品に惹かれる理由の一つは、その絶妙なバランスにあります。
革靴としての普遍性を大切にしながらも、革の使い方やパターン、木型の設計によって、これまで見たことのない表情を生み出している。決して奇抜ではない。それなのに、なぜか目が留まってしまう。そんな独創性を感じます。
例えばH Chukkerは、チャッカブーツという普遍的な形をベースにしながらも、アッパーとタンを縫い合わせ、一枚の革で大きく包み込むような構造によって、これまでに見たことのない立体的な表情を生み出しています。


一般的なチャッカブーツとは明らかに異なる造形でありながら、不思議と違和感はありません。
どの角度から眺めても美しく、履き込むことで刻まれるシワまでもがデザインの一部のように感じられます。


もうひとつ、独創的なデザインが印象的なのがConnect Loopです。


ミュールやチェルシーブーツ、ジップブーツなどはシューレースを持たない分、全体の印象がすっきりとした表情になります。もちろんハトメなどのパーツも必要ありません。
一方で、レースアップシューズはシューレースやハトメがあることが当たり前で、それらもデザインの一部になっています。
しかし、Connect Loopはレースアップシューズでありながら、驚くほどミニマルな表情に仕上げられています。
アッパーはわずか二枚の革で構成し、ハトメやフックなどを用いずにシューレースを通す穴もアッパーから繋がった革で仕立てたデザインです。
必要以上にデザインを加えるのではなく、むしろ削ぎ落とすことで革そのものを際立たせています。


だからこそ自然と目が向くのは、クラック加工によってひび割れた顔料が生み出す独特の表情や、立体的なフォルムが描く美しい曲線です。
デザインを主張するのではなく、素材そのものをデザインとして昇華している。その発想にPETROSOLAUMらしさを感じます。
H ChukkerもConnect Loopも、新しさを感じさせる作品でありながら、奇抜さだけを狙ったデザインではありません。
靴としての作り込みにも一切の妥協はなく、既製品とは思えないほどの造り込みが細部にまで息づいています。
アッパーは熟練の職人による手吊り込みで丁寧に立体へと成形され、アウトソールにはヒドゥンチャネルやフィドルバック、ウッドペイスといった伝統的な意匠を採用。目に見えるデザインだけではなく、長年培われてきた靴作りの技術が惜しみなく注ぎ込まれています。



見える部分だけで新しさを表現するのではなく、その土台となる靴作りにも一切妥協しない。だからこそ、独創的なデザインであっても革靴としての魅力を感じさせてくれるのです。
その根底には、革靴という完成された文化への深い敬意があります。完成された形であるがゆえに、新しい表現を生み出すことは決して簡単ではないでしょう。
それでもなお、これまでの革靴にはなかった新たな形を生み出してくれる。PETROSOLAUMの作品に惹かれる理由はまさに、そこにあるのだと思います。
執筆者 中村鴻大


